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Plant Names and Overviews植物名と概要

オオバノトンボソウ Platanthera minor

オオバノトンボソウ(花)
分類(APG Ⅳ):
単子葉類 > キジカクシ目 > ラン科 > ツレサギソウ属 > オオバノトンボソウ
花被片の色素:
コクランの花被片の基調となる緑色はクロロフィルに由来し、光合成能が維持されていると推測します。一方で唇弁や蕊柱ではクロロフィルの含量は低く、細胞間隙での多重散乱により白色に見えると推測します。フラボン/フラボノール誘導体が補助的に関与している可能性はあります。
生息地:
半日向・やや湿潤な常緑樹などの林床(北海道、本州、四国、九州
花期:
7月頃(多年草、虫媒花:スズメガ類 etc)
名前の由来:
同属(ツレサギソウ属)のトンボソウよりも葉が大きいことが由来とされています。
花:
オオバノトンボソウは総状花序で、3つの萼片と3つの花弁から構成される典型的な3数性の構造です。萼片は側萼片(2枚)+背萼片、花弁は側花弁(2枚)+唇弁ですが、背萼片と側花弁が合着状であるため、花被片が全部で4枚構成のように見えます。
ツレサギソウ(Platanthera)属の蕊柱には1本の機能的な雄蕊が取り込まれており(他の2本は退化)、その雄蕊の2つの葯室が、幅の広い葯隔(葯室を繋ぐ組織)を挟んで左右に分かれて配置されています。属名「Platanthera」(platy:広い、anthera:葯)は、この特徴的な葯室間(葯隔)の横幅の広さが由来です。
葉:
オオバノトンボソウの根元に近い部分では、楕円形の平行脈の目立つ葉が1~3枚展開し、その上部では披針形の葉が螺旋状に互生しながら付き、上へ行くに従って徐々に小さくなり、やがて苞葉へと移行します。全体として葉は鞘状で、螺旋状に互生することから茎が捻じれているように見えます。
地下部:
オオバノトンボソウの根は、地中に数本の太く短い繊維状の「肥厚根」を放射状に伸ばす構造をしています。各根はおおよそ直径5mm以上、長さ10cm未満で、全体としては紡錘状、あるいは塊状に肥厚した根が、茎の基部を取り囲むように集まっています。これらの根は、栄養の吸収や貯蔵、菌根共生の場として機能します。また、根から新芽を形成するようなクローン繁殖は行わず、種子による有性生殖に依存しています。
備考:
一時菌従属栄養ラン。発芽期・栄養期・成体期の共生菌:セラトバシジウム (Ceratobasidium)属。
発芽期・栄養期・成体期において、白色腐朽菌:クヌギタケ(Mycena)属、モリノカレバタケ(Gymnopus)属、ホウライタケ(Marasmius)属、および外生菌根菌:ベニタケ(Russula)属、チチタケ(Lactarius)属、副次:クモノスシメジ(Inocybe)属、トメンテラ(Tomentella)属などのDNAが根圏または根内から検出さていますが、ペロトン様構造・非コイル状ペロトン様構造形成・栄養供給機能・発芽促進試験は実証されていないため、関与が示唆されているという表現に留めます。

全体

オオバノトンボソウ(全体)

オオバノトンボソウ(花)
唇弁が大きく後ろに反る

オオバノトンボソウ(花)
雄蕊の2つの葯室が左右に離れている

子房

オオバノトンボソウ(子房)
極端に長い距を持つ

オオバノトンボソウ(茎)
互生・螺旋配列・葉鞘構造により茎が捻じれて見える

オオバノトンボソウ(葉)
下部は鞘状の楕円形の葉が1~3枚展開する

オオバノトンボソウ(葉)
上部は鞘状の披針形の葉が螺旋状に互生する

Miscellaneous Notes雑記

感覚面と構造面の両方をカスタマイズ

長い距に刺さる口吻のイメージ

オオバノトンボソウは、細長く伸びた特徴的な距の奥に蜜を貯めているため、構造上、吸蜜できるのは長い口吻(こうふん)をもつ昆虫に限られます。実際のポリネーターとしても知られている夜行性のスズメガ類も、長い口吻を備えています。

一見すると、長い口吻をもつ蝶類もポリネーターとして適していそうですが、オオバノトンボソウは視覚に頼る蝶類ではなく、嗅覚に頼る夜行性の蛾類を明確なターゲットとする受粉戦略をとっています。

その証拠に、オオバノトンボソウの花被片は蝶の誘引に有効な派手な色素を持たず、代わりに夜間に強く香りを放つことでポリネーターを誘引しています。蝶類は蛾類に比べて嗅覚が劣っており、花を探す際には香りよりも色や形に頼る傾向が強いため、オオバノトンボソウのような香り主導型の花にはほとんど引き寄せられません。

更に、オオバノトンボソウの唇弁は後方へ大きく反った特殊な形状をしているため、着地して蜜を吸う一般的な昆虫にとっては足場のない不便な構造なのですが、空中でホバリングしながら吸蜜するスズメガ類などにとっては非常に吸蜜しやすい構造になっています。

このように、オオバノトンボソウには感覚的にも構造的にも特定の夜行性の蛾類に送粉を限定する洗練された適応戦略が備わっていると言えます。

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2025.08.08:「変更」自分用メモ「共生菌」の内容を変更しました。

2025.07.25:「公開」ページを公開しました。