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Plant Names and Overviews植物名と概要

ハグロソウ Peristrophe japonica

ハグロソウ(花)
分類(APG Ⅳ):
真正双子葉類 > 中核真正双子葉類 > シソ目 > キツネノマゴ科 > ハグロソウ属 > ハグロソウ
花被片の色素:
ハグロソウの花被片の基調となるピンク~紫色はアントシアニン類:シアニジン系/ペラルゴニジン系/デルフィニジン系の配糖体と微量のフラボン/フラボノール誘導体との非共有結合的な共色効果(コ・ピグメンテーション)、液胞pH、軽度のアシル化により鮮やかさが安定していると推測します。一方で花冠に見られる黄色の斑点はチャルコン類、赤い斑点はアントシアニン類の局所的蓄積によるものと推測します。
生息地:
半日陰・多湿な渓流沿いや湿地帯(本州、四国、九州)
花期:
8月頃(多年草、虫媒花:推測:ハチ類、蝶類 etc)
名前の由来:
ハグロソウは漢字では葉黒草となり、やや葉が黒いことが語源(牧野日本植物図鑑より)とされていますが、実際にはそれほど黒くありません。上唇と下唇をくちびる、花弁の模様をお歯黒に見立てて歯黒草となったというユーモラスな説もあります。
花:
ハグロソウの花は腋生の集散花序が集まった形で、花冠は合弁した5枚の花弁からなる2唇形(上唇:3裂、下唇:2浅裂または全縁)の2数性の構造です。また、花冠筒が180°捻じれていますが(ラン科のように子房が捻じれるResupinationとは別系統のTorsion)、内部器官はそのままに上唇と下唇の花弁だけが反転しています。同科のキツネノマゴも同じ形態を持っていますが、花冠筒が捻じれないため、上唇(全縁)と下唇(3稜)が正常な位置のままになります。
葉:
ハグロソウの葉は十字対生し、葉身は卵形で基部は楔形~円形、葉頂は鋭尖頭。葉縁は全縁でやや波打つことがあります。名前の由来になっている黒さは感じません。
茎:
ハグロソウの茎は4稜あり、稜上に軟毛が2縦列します。
備考:
上唇・下唇の上に浮かんでいる模様は、花芽発生初期に設定された座標系を基準に、花弁の形がほぼ完成する後期に差し掛かると局所シグナルが作動して形成されます。この後期という選択が秀逸で、模様形状の精度維持や代謝の効率、送粉効率など全てにおいて、とても合理的な戦略です。詳細については長くなるので雑記に記載します。

全体

ハグロソウ(全体)

ハグロソウ(花)
柱頭は2つに分かれる

ハグロソウ(花)
花冠筒が180°捻じれる

ハグロソウ(花)
合弁の名残りの3稜

花(キツネノマゴ)

キツネノマゴ(花)
キツネノマゴは花冠筒が捻じれないので下唇が3稜

ハグロソウ(葉)

ハグロソウ(茎)

Miscellaneous Notes雑記

花弁に模様が現れるまでのプロセスについて

ハグロソウ花の模様

花芽形成の開始から花弁上に模様が現れるまでの流れについて、拙いですがまとめてみました。

1.花芽発生初期:座標系の確立
花芽が形成される初期、花弁・雄蕊・雌蕊などの位置や向きを決定する花器官パターン形成遺伝子(例:CYCLOIDEA、RADIALISなど)が働きます。 この段階では花弁はまだ原基(小さな突起)にすぎませんが、すでに背側(上唇)・腹側(下唇)・左右といった空間座標の枠組みが細胞にインプットされています。 これにより、将来の模様の「位置の基準」が設定されます。

2.花弁成長期:形状の構築
座標系をもとに花弁が立体的に成長し、形の大枠(輪郭と厚み)が作られていきます。 この段階では色素関連遺伝子はほぼオフで、模様は視覚的には存在しません。 但し、座標系は成長に合わせて比例拡大され、特定の領域(例:下唇中央部)が将来模様を持つ位置として保持されています。

3.花弁成長後期(最終形到達まで7~8割時点):模様形成シグナルの活性化
花弁が最終形に近づいてくると、局所的なシグナル(モルフォゲン濃度勾配、小型ペプチド、植物ホルモンなど)が活性化します。 これらのシグナルは座標系を参照して「この領域の細胞で色素合成を開始せよ」という命令を発し、転写因子(R2R3-MYB、bHLH、WD40など)を介してアントシアニン生合成遺伝子(CHS、DFR、ANSなど)をオンにします。 これにより、花弁の特定部位に模様が描かれ始めます。

4.模様形成のタイミングが後期である理由

  • 形の歪み防止:模様形成が早すぎると、その後の成長でパターンが拡大・変形し、精度が低下します。
  • エネルギー効率:色素合成は代謝コストが高く、成長途中で発現させると無駄が大きくなります。
  • 生態的適応:送粉者が利用する模様は、開花直前に出現したほうが誘引効率が高く、未成熟花への誤誘引を防げます。
  • 発生的制約:模様境界の決定には安定した座標系と細胞配列が必要で、それが整うのは花弁成長後期です。

5.開花直前~開花
色素沈着が完了し、模様がくっきりと視認可能になります。 この段階でハグロソウの上唇・下唇に現れる紫色~赤紫色の帯や斑点は、昆虫にとって蜜源への視覚的な目印(ネクターガイド)として機能します。 一見左右対称ですが、実際には発生時の微小な環境差やシグナルの濃度差によって左右非対称が生じます。

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2025.08.18:「公開」ページを公開しました。