Plant Observation Record
植物観察記録
Plant Names and Overviews植物名と概要
ベニシュスラン Goodyera biflora
- 分類(APG Ⅳ):
- 単子葉類 > キジカクシ目 > ラン科 > シュスラン属 > ベニシュスラン
- 花被片の色素:
- ベニシュスランの花被片はフラボン/フラボノール誘導体が補助的に関与しつつも、可視発色色素の含量が低く、花被組織の半透明性と細胞間隙での多重散乱により白色に見えると推測します。一方で背萼片・側萼片・側花弁の合着部外側には赤褐色層が局在し、これが裏映り(半透過)することから内側がほのかなピンク色に見えます。この合着部の赤褐色は、アントシアニン類:シアニジン系の配糖体と微量のフラボン/フラボノール誘導体との非共有結合的な共色効果(コ・ピグメンテーション)、液胞pH、軽度のアシル化により鮮やかさが安定していると推測します。
- 生息地:
- 半日陰・多湿な渓流沿いや常緑樹などの林床(北海道、本州、四国、九州、沖縄)
- 花期:
- 6~7月頃(多年草、虫媒花:推測 ハナバチ類、ヒラタアブ類 etc)
- 名前の由来:
- 花がうっすらと紅色を帯び、葉が繻子織(サテン)のような光沢と模様を持っていることが由来とされています。学名の「biflora」の部分は「2つの花を持つ」という意味で、主に花被が2個セットで咲くことが由来とされています。
- 花:
- ベニシュスランの花は総状花序で、3つの萼片と3つの花弁から構成される典型的な3数性の構造です。萼片は側萼片(2枚)+背萼片、花弁は側花弁(2枚)+唇弁ですが、背萼片と側花弁が甲羅状に合着している、または合着しているように見えるため、花被片が全部で4枚構成のように感じます。また、子房が180°捻じれない「非捻性」という特徴を持っています。
- 葉:
- ベニシュスランの葉は節間の短い短縮茎に互生しますが、葉の基部が鞘状に発達して茎を部分的に包むため、一見すると対生のように見えることがあります。
また、名前にもある通り繻子織のような網目模様が目立つことも多いのですが、よく見ると単子葉類の特徴である平行脈を確認できます。ベニシュスランの葉は、平行脈でありながら双子葉類の網状脈のように交連脈も発達させることで、葉内の資源輸送の効率を向上させるという独自の進化を遂げています。
- 地下部:
- ベニシュスランの根茎は直線またはやや曲がりながら地表面に密着した状態で匍匐し、短い節間から根を地中の腐植層に向かって伸ばします。微小であっても腐植・コケ層・湿潤などの条件が揃えば、樹木や岩の表面でも生育可能です。(共生菌からの補助的なサポートも受けられると思います。)
ベニシュスランの根茎は、同属の類似種の例から、1年に1節のサイクルで成長すると思われ、旧年の節は枯れずに残り、貯蔵組織として機能し続けます。更に、栄養条件が良好な場合には、根茎の中間節からも新芽(クローン体)が形成されます。
- 備考:
- 部分菌従属栄養ラン。発芽期の共生菌:ツラスネラ(Tulasnella)属 、栄養期・成体期の共生菌:セラトバシジウム (Ceratobasidium)属。発芽期と栄養期でリゾクタニア型菌の種類が替わる。
栄養期・成体期において、白色腐朽菌:クヌギタケ(Mycena)属などのDNAが根圏または根内から検出さていますが、ペロトン様構造形成・栄養供給機能・発芽促進試験は実証されていないため、関与が示唆されているという表現に留めます。但し安定同位体(δ13C, δ15N)値が部分菌従属栄養ランの特徴を示すことから、白色腐朽菌関与の可能性は高いと考えられます。(共生菌が一貫してリゾクタニア型菌の場合、一時菌従属栄養ランの特徴を示す傾向が強いため)尚、外生菌根菌の関与は現在のところ確認されていません。
全体

花

花

葉

短縮茎

根

Miscellaneous Notes雑記
「捻じれない」という壮大で普通の選択
ラン科の植物は基本的に、子房が180°捻じれる「Resupination」という現象を経て、唇弁を花の下側に配置します。これがポリネーターの着地点(スタート地点)となり、花の内部構造に沿った受粉誘導が行われると考えられています。
一方、シュスラン属やキンラン属などの一部のラン科植物では「Resupinate(捻転性)」せずとも唇弁が最初から下側に配置される「Non-resupinate(非捻性)」という進化形態が見られます。
海外で観測されたベニシュスランの個体の中には、明確に子房が捻じれて唇弁が上側に位置する例が確認されています。これは遺伝的な「先祖返り(Atavism)」であると思われ、ベニシュスランが嘗ては「Resupinate(捻転性」していたが、現在では「Non-resupinate(非捻性)」へと進化した種であることを示唆しています。
捻じれを伴わない花の構造はラン科以外では一般的ですが、原始的なラン科植物も「Non-resupinate(非捻性)」であったと考えられており、途中で「Resupinate(捻転性)」化し、更にシュスラン属やキンラン属などでは再び捻じれを省く方向へ進化したと推測されます。これは長い年月をかけて構造的な合理化を図った結果、普通の状態に至ったというある種の「進化のサイクル」を感じさせる現象です。
こういった背景を知った上でベニシュスランを観察してみるのも、また違った楽しみ方になるかと思います。
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