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Non-pollinating Mechanism他種・自家受粉しない仕組

ポリネーターについて

花から花へ飛び回り、花粉を他の花へ運ぶ生物を「ポリネーター(花粉媒介者・送粉者)」と呼びます。

多くの花粉は微細で軽いため、ポリネーターの体に付着しやすくなっています。(植物によっては、粘着性物質や特殊な構造によって花粉をポリネーターに付着させるものもあります。)

そのため、ポリネーターの体には複数種の花粉が同時に付着していることがあり、他種の花粉が柱頭(雌蕊の先端)に運ばれる場合もあります。

花粉の識別

柱頭に花粉が付着すると、柱頭の表面細胞がその花粉が同種か他種かを分子レベルで識別します。

花粉の表面には、種ごとに特徴的なタンパク質や糖鎖(糖からなる鎖状構造)が存在しており、これらが識別の手がかりになります。例えば、糖鎖は私達の赤血球の表面にも存在しており、構造の違いによってA・B・O・AB型を識別できます。

一方、柱頭にはレクチン(糖鎖を識別するタンパク質)や、特定の受容体タンパク質が存在しており、これらが花粉表面の分子と特異的に結合することで、同種か他種かを判断しています。

同種の花粉であると判断された場合には、柱頭の表面細胞がタンパク質や多糖を含む水分を花粉に供給します。これにより花粉は発芽し、胚珠に向かって花粉管を伸ばし始めます。(他種の花粉には水分が供給されないため、発芽することはありません。)

自家不和合性について

一部の植物は「自家不和合性(自分自身の花粉による受粉を防ぐ)」という仕組を持っており、先述の分子レベルでの識別の後、更にS遺伝子型の一致を判定することで自家花粉かどうかを識別し、一致した場合には受精を防ぐために花粉の発芽や花粉管の伸長を阻害します。この自家不和合性(Self-Incompatibility, SI)には、主に以下の2つの型があり、阻害されるタイミングが異なります。

(1)GSI型(Gametophytic Self-Incompatibility, GSI 雌性決定型)ナス科、バラ科、ケシ科などに見られます。
この型では、発芽した花粉が花粉管を伸長している途中で、花柱組織から分泌されたS-RNaseが花粉管内に侵入し、花粉側のS遺伝子型とS-RNaseのS型の一致が判定されます。一致した場合は、花粉管内のRNAが分解され、花粉管の伸長が阻害されます。

(2)SSI型(Sporophytic Self-Incompatibility, SSI 雄性決定型)アブラナ科などに見られます。
この型では、花粉が柱頭に付着した時点で、花粉表面にあるSCR(小型シグナルペプチド)と柱頭のSRK(受容体型キナーゼ)との間でS遺伝子の一致が判定されます。一致した場合は、柱頭からの水分供給が開始されず、花粉は発芽できなくなります。(先行して行われた分子レベルの識別よりも、このS遺伝子の一致判定の方が優位に働きます。)

このように、自家不和合性にはGSI型(雌性決定型)とSSI型(雄性決定型)の2つがあり、いずれもS遺伝子型の一致に基づいて自家花粉を排除する点は共通しています。

Miscellaneous Notes雑記

GSI型の作用をもう少し深掘り

GSI型のS-RNase

GSI型のS-RNase(S型リボヌクレアーゼ:RNA分解酵素)の働きについてもう少し詳しく説明します。

花粉が柱頭からの水分供給を受けて発芽し、胚珠に向かって花柱内に花粉管(管細胞)を伸長していく過程で、花柱内の組織から分泌されたS-RNase(RNA分解酵素)が花粉管内に侵入してきます。

この時、花粉側が持つS遺伝子とS-RNaseのS型が一致しなかった場合(=非自己)、花粉管内にあらかじめ備えられていた「SLF(S-locus F-box)タンパク質」がS-RNaseを認識し(ユビキチン-プロテアソーム系を通じて)分解・無効化します。これにより、花粉管のRNAは守られ、花粉管の伸長が継続されます。

一方、花粉側が持つS遺伝子とS-RNaseのS型が一致した場合(=自己)、SLFタンパク質は自己のS-RNaseを認識・分解できない設計となっているため、S-RNaseによって花粉管内のRNAが分解され、花粉管の伸長は阻害されます。これが自家不和合性の分子メカニズムです。